その後、僕らはミレイさんのお見合いを破談すべく、ミレイさんや周囲に気づかれないよう、水面下で連絡を綿密に取り合い着々と計画を立てていった。
とはいっても連絡は基本携帯電話で、気づかれるリスクはさほど高いものではなかったが。
問題があるとすれば、時折ルルーシュが何も言わずふらりと消えるくらいで、特に計画に支障が出るほどではなかった。

そして、良くも悪くも迎えた当日―――


「お、いるいる」


室内に置かれたプランターの物陰に身を潜め覗き込んだ先に、ミレイさんとその見合い相手の男が見えた。
ニーナの情報によると、貴族といってもここ最近金にものをいわせて権力を買い漁って大きくなった、いわゆる成金上がりのお貴族様らしい。
遠目から見ただけでも成程、貴族にしては品のない面構えなのが解る。
ああいう手合いは絶対相手の家柄が目当てに決まっている。
仮にこの想像が間違いだったとしても、ミレイさんの心底嫌そうに接するあの態度からは少なくとも相手に対して好印象は見られない。
やはりこれはこのお見合いをぶっ壊さなければ。
僕の中に使命感に似た決意が高まる。
更に好都合な事に、見合いは繁華街の一角にそびえる高級ホテルの一階、喫茶室を兼ねたラウンジで行われているのだが、周囲の人はまばらで見た限り当事者以外の関係者の姿もない。
後はこちらの準備が整えばすぐにでも計画を実行可能だ。

僕はズボンのポケットから携帯電話を取り出した。
「もしもし、準備は出来たかい?」
ここ数日ですっかり覚えた数字の羅列を押し、出た相手に即座に訊ねた。


「もしもし?」
「お待たせ」


「うわっ!?」


電話にしてはすぐ背後から聞こえてきた声に驚き見れば、携帯電話を片手にニーナが立っていた。
「ご、ごめんなさいっ」
「いや、こっちが驚いただけだから…。それより―――」
条件反射で謝るニーナに内心苦笑いをしつつ、僕は彼女の周囲を窺った。
それらしい人物は見当たらないが…。
「―――ルルーシュは?」
「…ここにいるだろうが」


「へ?」


コツコツと控えめに響き近づいてくる靴音。
その姿に僕は間抜けだが口を半開きにさせ見入ってしまった。
「………ぇえ〜と〜、ルルーシュ?」
恐る恐る尋ねれば、ルルーシュはギッと音がでそうな勢いで僕を睨みつけた。
「他の誰だと言うんだ!?」
「え、いや、そのぉ〜〜〜…」
「言ってみろ、ライっ」
返す言葉が見つからずたじろぐ僕に、ルルーシュは更に襟元を掴みかからんとした。
「止めて二人とも」
見かねたニーナが慌て止めに入った。
「こ、こんな所で騒いだらばれちゃうよ!?」「くっ」
そう言われてしまっては、流石にルルーシュの手も止めざる負えない。
確かにここまで来て失敗しました、じゃ何の意味もない。
「そうそうルルーシュ、落ち着けって」
「お前が言うなっ、…全く、計画を考えさせてくれと言うから任せてみれば…」
額に手をあてルルーシュがぞんざいに大きく息を吐いた。
「いいじゃないか、似合ってるんだし」
「そういう問題か!?それに大体何で俺何だよ、ニーナがいるじゃないかっ」
「嫌だな〜ルルーシュ、解っているくせに」
僕はルルーシュの爪先から頭の天辺まで、ゆっくりと視線を巡らせ笑った。
薄い水色と白を基調とした上品なシフォンワンピースに身を包んだ彼、いや彼女はどこから見ても深窓の令嬢様そのものだ。
これがまさか男だとは初対面の人間は思うまい。


―僕の考えた作戦はこうだ。


まずどこぞの使用人に扮した僕と、同じくどこぞの貴族令嬢に扮したルルーシュが偶然を装い、見合いの席に現れる。
そして、僕が何とかしてミレイさんを連れ出して、その隙にルルーシュが見合い相手と接触しニーナが写真におさめると。
これなら本人が否定しようと、写真という証拠と当事者を含めた証人がある以上、言い逃れはまず出来ないだろう。
当然、向こうに非があるのだからミレイさんからその事を理由に断ったとしても、ミレイさんやアッシュフォード家には迷惑はかからないというわけだ。
それには見合い相手に相対する令嬢がいかに上手く誤解を招くような体勢に持っていけるかが、大きな鍵となる。

「女の子にそんな危険な事させられるわけないだろう?」
「それならライ、お前が女装すれば良かっただろうが」
「そんな、僕とルルーシュなら作戦成功率が高いのは確実にルルーシュの方だし」
僕とルルーシュの体格差からしても、それは解りきった事だ。

それに何より―――、

「ペテンは君の得意分野、だろ?」


相手を口先で丸め込む技術は、彼の右に出るものはいない。
少なくとも僕はそう思っている。

「………ライ、後で覚えてろよ」
「否定はしないんだね、ルルーシュ…」


らしくなく苦し紛れの脅し文句(?)を吐き捨てたルルーシュに、僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。
一応、誉めたつもりだったのだが。それは本人には伝わらなかったようだ。

「それじゃあ、作戦開始しとますか」

後が怖いがとりあえずルルーシュが納得してくれた事だし、僕は作戦決行を宣言した。

「そうだな、さっさとこんな茶番終わらせてやる」
「うん。頑張ろうね」

ルルーシュとニーナが僕の言葉に頷き、動き出す。

そうだ、皆に支えられここまで来たのだから、絶対成功させよう。
二人の姿に僕も気合いを入れ直し、敵地に足を向けた。



「…まあ、もし失敗しても念のため保険はかけてあるしな」


「何か言ったか、ルルーシュ?」

耳元で何か聞こえたような気がして怪訝に問えば、ルルーシュは口許に微笑を浮かべた。


「いえ、別に」


それは見事なまで完璧なお嬢様スマイルだった。









後編はまた後日。
…本当にすいませんm(__)m

そのD(お疲れ様な人)

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